出逢い

 目覚め、そして出逢い 【カノン編】

『俺がおまえの守護者だ』

そう言ってカノンが、目覚めた少年、瞬に手を差し伸べる。
瞬は、しばしカノンと手を交互に見つめた後、思い切ったようにその手を取って
起き上がり、導かれるまま、カノンの少し後ろを歩いた。
が、いかんせん目覚めたばかりなのでうまく歩けず、途中で転んでしまう。

『何をやっている』

カノンがすぐさま振り返り、腕を掴んで瞬を起こす。
その弾みで身体がよろけて、瞬はカノンの胸板に寄りかかる体勢になってしまった。

頬に伝わる心臓の鼓動。
間近にあるぬくもり。
目を閉じると、草の香りとともに、少しばかり、汗のにおいが鼻をかすめた。

『いつまでくっついているつもりだ』

カノンの声で我に返り、瞬が慌てたように身体を離す。
そのまま恐る恐るカノンを見上げ、数秒ほどその顔を見つめてから、
躊躇いがちに、ゆるりと唇を開いた。

『あの…あなたはもしかして…おとうさん?
『…違う』
『じゃあ…おかあさん?
このまま棄ててやろうか

不機嫌な表情のカノンに、瞬の身体が、怯えたようにぴくりと震える。
と同時に、じわり、と、瞳が潤んだ。
そのままうつむき、胸の前で手を組みながら、ごめんなさいを繰り返し、
ぽたぽたと涙を落とす。
その姿を見下ろしながら、カノンは大仰に息をつき、少し乱暴気味に瞬の腕を
掴んだ。

『冗談に決まっているだろう。俺はおまえとともにあると決められている。
 拒否権などないのだ。俺にも、おまえにも』
『それじゃあ…ずっと一緒にいてくれるのですか?』
『そういうことになるな。俺にしてみれば…』

面倒なことだが。

そう言おうとして、言葉が止まる。
瞬の、無垢で安心しきった笑顔を目の当たりにして。

きっと、この瞬間に。
自分は瞬に捕まってしまったのだろうと、
後々になって自覚することになるカノンであった。

おしまい。

 目覚め、そして出逢い 【シャカ編】

『私が君の守護者だ』

そう言ってシャカが、目覚めた少年、瞬を見下ろす。
目をぱちくりさせる瞬をよそに、シャカはとっとと踵を返し、さっさと歩き出した。

『あ…』
『何をしている。早く来たまえ』

情け容赦のない言葉。
瞬は慌てて身体を起こし、必死になって追いかけるが、
いかんせん目覚めたばかりなのでうまく歩けず、途中で転んでしまう。
が、シャカは振り返りもせずに、更に歩みを進めるばかり。
そうこうしているうちに瞬はシャカを見失い、気がつけば日が暮れ、あたりが薄闇に。
瞬は不安と戦いながらシャカを探してひたすら歩き回るものの、
闇雲に歩いたところでその姿が見つかるはずもなく、
とうとう疲れ果てて木の下へ座り込んでしまった。
既に光と呼べるものは空に淡く輝く半月のみ。
心細くなり、膝を抱えながら、じわりと瞳を潤ませる。
風で木々がざわめくたびに、遠くで獣の声が聞こえるたびに、
えもいわれぬ恐怖が瞬を襲い、その身を震え上がらせた。

やがて。
カサリ、カサリ、と、草を踏みしめる音が耳に届き、瞬は、はっと顔を上げた。
徐々に近づく音。
このままでは、その音と鉢合わせになってしまう。
ここから逃げ出さなければ。
そう思いながらも、身体がすくんで思うように動かない。
瞬はただ、膝に顔をうずめ、身体を小さくさせながら必死で息を殺した。

『そんなところで何をしているのかね』

音が途絶え、その次に聞こえたのは、耳にしたことのある声だった。
瞬が恐々顔を上げると、そこには、月の光に照らされ、
静かに佇む金髪の青年の姿があった。

『随分と探した。獣にでも襲われたのかと思ったぞ』
『あ…』
『何故私を呼ばなかった。
 ここは、君のような者が独りで歩けるほど生易しいところではないぞ』
『ご…ごめんなさい…。でも…』
『何だね』
『僕…あなたの名前を知りません』
『………』

時が止まってしまったかのような、間。

ざわざわと、葉ずれの音があたりに響く。
やがて青年は、何事もなかったかのように瞬の傍へ近づき、手を差し伸べた。

『私の名はシャカだ。覚えておきたまえ』
『シャカ…』
『次に何かあった時は、必ず私を呼びたまえ。
 どこへいようとも、必ず君を見つけ出す』

血の通った、何ものをも抱き留めるような声音。
瞬が、ようやく安堵したように頷き、その手を取る。

そもそもシャカが瞬の歩くペースを考慮しなかったために こんなことになったということは次元の彼方へ置いてけぼりのようである。


あの時。
初めて瞬の姿を目の当たりにした時。
どのような声をかければよいのか、
どのように接すればよいのか、
まるでわからずに戸惑っていたために瞬の様子に気付けなかったということは、
シャカの胸の中だけに収められた、奥深い真実。
諦めにも似た意思で受け入れた宿命は、
時を経ずして、シャカ自身の意志へと変わっていくのであった。

おしまい。



月下美人」の華月様のところから奪取してきました。
サイト100000HIT突破記念作品です

カノン編もシャカ編も二人のやりとりがとても面白いです〜♪
カノンに「おとうさん?」ってしっくりきてる…と、ついうっかりうなずいてしまいました(笑)
戸惑いを表面に出さないシャカ、かわいいです(笑)ていうか、置いていかないで〜(涙)

華月様、いつもいつも素敵なお話を書いてくださってありがとうございますvvv
この後二人がどうなって行くのかとても気になります。
ぜひいつか続きを書いてくださいね!


20040731