幸せの薔薇



その日、瞬はギリシア・聖域に居た。
トントントントン・・・。
軽い足取りで階段を上っていく。
その階段は言わずと知れた12宮。
聖闘士の中でも最強と呼ばれる黄金聖闘士たちが守る12の宮。
トントントン・・・。
「あら、ひとりですか?」
にこやかな笑顔で顔をだしたのはムウである。
彼はいつも穏やかである。
まぁ、デスマスクやカノンなどに言わせると何を考えているか分からなくて逆に怖いらしいが…。
瞬もムウにつられてニコニコと微笑む。
「通らせてくださいね」
瞬には目的があると察したムウがにっこりとその場を通してくれた。
白羊宮を抜け、金牛宮のアルデバランに会い、巨蟹宮のデスマスクを無視して、双児宮では双子の兄弟喧嘩を見て見ぬふりをして進む。
獅子宮は無人だった。アイオリアはまたどこかへ出かけているのだろう。
トントントン・・・。
「何をしているのかね?」
次に声をかけてきたのは処女宮、神に最も近い男・シャカである。
「ちょっと上に・・・」
瞬が口ごもりながら話すと一瞬だけふっと笑い意外にもあっさりと通してくれた。
天秤宮の老師は最近は教皇の間でシオンとよくお茶をすすっているらしく留守である。
トントントン・・・。
天蠍宮にはミロがいた。
「お、瞬ひとりか?珍しいな」
ミロはさっぱりとしていて、それでいて子供っぽいところがあるため瞬や星矢をはじめ青銅聖闘士たちにやたらと懐かれている。
今回も瞬はミロに言われてぷうっと顔を膨らませた。
普段瞬は黄金聖闘士たちの前でこんな表情はしないのだが、相手がミロである。
「はは。冗談だ。たまには一輝や星矢たちと離れて行動するのも新鮮でいいかもな」
そう言って瞬の頭をポンポンと軽くたたくとそのまま見送る。
そして次は人馬宮、アイオロスがいる。
そしてそこには下の獅子宮にいなかったアイオリアも一緒に居た。
瞬は二人を見比べ、“似ている”と思った。
瞬と一輝は似ていないからこのふたりが瞬にはちょっとうらやましくもあるのだ。
ふたりは笑顔で瞬を迎えそのまま見送ってくれた。
次は磨羯宮のシュラである。
シュラとはほとんど話しをしたことがない…だが、見た目は怖いが意外とあったかい感じの人だと瞬は思った。
シュラに挨拶をして前を見ると次に目に入るのは宝瓶宮、氷河の師・アクエリアスのカミュが守る宮である。
「こんにちは、カミュ」
瞬の姿にカミュは優しく目を細める。
カミュにとっては氷河の友である瞬は、いや、瞬だけでなく他の青銅聖闘士たちも氷河同様に可愛いと最近思えてきたのだ。
ある意味この男は母性があるのではないかと思えるほど…。
「どうした?めずらしいな」
カミュの言葉に瞬はえへへと笑って今までと同じように言った。
「ちょっと上に…」
カミュは珍しそうな表情をしたがそれも一瞬のことですぐに道をあけてくれる。
そして瞬を通しながら言う。
「帰りにも寄って帰りなさい」
お土産をあげるからね、と付け加えて。
瞬は思う。
――幸せだな、と。
聖戦が終わり冥界のずれが生じてしまい、それが幸運にもたくさんの死んだ者たちを甦らせた。ここにいる黄金聖闘士たちもそうだ。
心から思う。
彼らが甦ってくれて良かった、と。



トントントンッ。
瞬は最後の階段を上った。
そこは双魚宮である。
今回の瞬の目的である場所。
きょろきょろと見回すが宮の主の姿は見当たらない。
(どこかに行っちゃったのかな?)
そんなことを考えながら瞬は奥へと歩を進めていく。
双魚宮の奥には美しい薔薇の園がある。
瞬はこの12宮へ来るといつしかその薔薇園に行くのが楽しみになってしまったのだ。
以前はあれほどまでに憎んだ相手だというのに…。
お互いの命を懸けて闘った相手。
ピスケスの黄金聖闘士、アフロディーテ…。
瞬が初めて生身の拳を放った相手である。
師を殺された…。
その事実を知った時は本当に憎んでたのに。
でも聖戦でハーデスの誘いに乗ったふりをして女神の元へやってきたと聞かされた。
ああ、彼も聖闘士なんだと思った。
聖戦が終わり、皆が甦って会った時、お互いぎこちなかった。
「まさかねぇ…」
ふふっと瞬が微笑む。
(まさかこんなに通じ合うとは思ってもみなかったのに)
そう、今、瞬とアフロディーテはなんだか仲が良い。
まぁ、アフロディーテが振り回されている感が否めなくもないが、とりあえず仲が良いらしい。
一輝などは『また行くのか?』などと呆れている。
だが瞬にとってアフロディーテは害がないとわかっているのであろう、呆れるだけで止めはしないのだ。
瞬はきょろきょろと辺りを見回しながら進んで行く。
最奥のアールデコ調の扉を開けるとそこにあるのは薔薇。
アフロディーテが育てている薔薇園である。
香る優しく甘い香り。
「ん〜…いい香り」
鼻をくんくんと子犬のようにその香りを嗅ぎながら瞬はちょこちょこと進んでいく。
「…いない…」
だが、どれだけ見回しても歩いても目的の人物は見当たらない。
(どこ、いっちゃったんだろう?)
「・・・・・・・・・暇・・・・・・・・」
いつもはここに来るとアフロディーテがいる。
優しく華やかな笑顔を見せ迎えてくれるのだ。
『瞬、よく来たね』と。
でも今日はその迎えてくれる人物がみあたらないのだ。
代わりではないが瞬は薔薇の香りにつつまれ、そしてその沢山の薔薇の中でコテンと横になってみる。
「気持ち、いいかも・・・?」
へらっと笑ってそのままコロコロと転がる。
ちゃんと薔薇にあたらない場所でやっている。
ギリシアは今日も暖かい。
こんな良い天気に沢山の色々な色の薔薇、そしてその良い香りに誘われて瞬はうとうとしてしまっていた。
30分としないうちに瞬からは安らかな寝息が聞こえてきた。



キィ。
ドアが開かれ、双魚宮からひとり瞬のいる方へ向かって歩いてくる人物がいる。
水色の柔らかく輝く髪の毛をなびかせた長身の青年。
アフロディーテである。
「…と…瞬?」
アフロディーテは驚きを隠せない表情をした。
それもそのはず、沢山の薔薇に囲まれて瞬がすやすやと眠っているのだ。
(そういえば…)
アフロディーテは今日街へ買い物に出かけていたのだ。
紅茶がきれてしまっていたし、他にも欲しいものがあった。
その帰り、12宮の中で一番上にある双魚宮に戻るまで今日はやたらと声をかけられたことを思い出す。
ムウには「寄り道しないでご自分の宮へ戻ったほうがいいですよ」と言われ、シャカには「なんでこんな日に出かけているのだ」と溜息をつかれ、ミロには「出かけてたのか…遊んでれば良かった」と意味不明なことを言われた。
(…なるほど、原因はこれか…)
その原因は仔猫のようにまるくなってすやすやと眠り続けている。
アフロディーテはすっと顔を近づけ瞬の顔を見る。
「…可愛い…」
ふっとアフロディーテにしては優しげに微笑み、瞬の頬を撫でる。
(一輝がうらやましいな…)
自分にもこんな可愛い弟がいたら、と思う。
きっと一輝に負けないくらいその弟を溺愛しているであろう。
そう思い苦笑にも似た表情を浮かべる。
そのまま片手を頭に置き、自分も横になり瞬を見つめる。
ふわふわと優しい風が当たりを包む。
いつの間にかアフロディーテも眠ってしまっていた。
暖かなギリシアの昼下がり、薔薇の中で眠るふたりの姿。
平和な証であろうか。
そんな姿にその場に居合わせた沢山の薔薇たちもまるで喜んでいるかのように柔らかな風に誘われて揺れていた…。



ここは幸せの薔薇園。いつの世も誰かの幸せを願うであろう―――幸せの薔薇たちが居る園――。


お昼寝

SACRIFICE」の海月様からいただきました!アフロ&瞬!
「ああ〜ん、素敵ぃ〜!」と、悶絶しております。

道々、声を掛けて下さる黄金兄さんズもさることながら、アフロディーテの優しい眼差しがたまりません。
いっそ、アフロの弟になってしまいなさい!と、言いたいです。(すみませんw)
個人的にはミロりんが、かーなーり、ツボでしたw
一輝瞬の海月さまがアフロ&瞬を書いてくださるなんて…アフロ瞬をゴリ押ししていて良かったと思います。
このままじわじわとアフロ瞬が浸透していけばいいなぁと、ほくそ笑んで(え?)います。

そして、悶絶だけではおさまらず、イラストを描かせていただきました。
アフロのパンツがオッさん臭いとか、ブーツが暑そうだとか、突っ込みどころは多々ございますが、ご容赦下さいw

この度は、こんなにも愛すべきアフロと瞬を書いていただきまして、ありがとうございましたv


20071201