双子座聖夜曲 | 4

「なんだ、つまらんな。」

翌未明。
カノンの寝室に入るなり、おもむろに、ふたりが眠るベッドの掛け布団をめくったサガは、 心底残念そうに溜息をついた。

「おまえがクリスマスに興味がないというのは本当だったのだな。」
「…何をしている、サガ。」

急に感じた肌寒さで目が覚めたらしく、カノンが、あからさまに迷惑そうな顔をサガに向ける。

「クリスマスといえば、世の恋人たちの気分が最も盛り上がる日。
とうとうおまえもアンドロメダを手篭めにしたことだろうと思ったのだが…。
二人とも寝巻きなんぞ着て、色気の欠片もない。」

「何をバカなことを言っている。おまえのたわごとなど聞く耳持たんわ。帰れ。」

思いっきり顔をしかめながら、カノンが掛け布団を手繰り寄せて、再び寝る体制に戻す。

「やけに寝起きが悪いではないか。いつもなら大声を出しまくっているところなのに。 アンドロメダなど、目すら覚まさないで。さては…。」

不意に、サガが、口の端を上に歪める。

「私にツッコまれるのが嫌で、コトが済んだ後に寝巻きを着たのだろう。水臭いぞ、カノン。 いくら私がアンドロメダを狙っているとはいえ、弟の幸せを祝う余裕くらいはある。 赤飯くらいは炊いてやるぞ。
何が赤飯だ。というか、今何時だと思っている。夜も明けきらないうちから睡眠妨害しおって。」
「何を言う。夜が明けきってからでは、面白いものを見られる可能性が低くなるではないか。」
「いいから、帰れ。おまえの相手をする気はない。」
「そうか。それなら…。」

おもむろに、サガがベッドの上に乗っかり、カノンの隣で寝息を立てている瞬に顔を近づける。

「アンドロメダに相手をしてもらおう。悪いな、カノン。一番手の座は私のものだ。」

ガバァッ!

「何をするか!貴様!」

つい今しがたまでの眠気まなこはどこへやら。
元気よく飛び起きたカノンが、目にも留まらぬ速さで瞬からサガを引っぺがす。
一方、ふかふかのベッドから強制的に床に着地させられたサガは、やれやれといった風をしつつ、 たしなめるようにカノンを見下ろした。

「カノン。私には、おまえの幸せを祝う余裕があるというのに、 おまえには、私の幸せを祝う余裕はないのか。」
「何が幸せだ!いつもいつもいつもいつも性懲りもなく瞬を狙いおって!いい加減にしろ!」
「私は、私の心に正直なだけだ。おまえと違ってな。」
「何をわけのわからんことを言っている!帰れと言ったら帰れ!」
「ああ、うるさいヤツだ。あんまり大声を出すと、アンドロメダが起きるぞ。
というか、この状況で眠っていられるとは無防備無限大といった感じだがな。
それはさておき、私も早起きのしすぎで、少々眠くなってきた。
今日のところは諦めて、アンドロメダのことは、またの機会にさせてもらうとしよう。ではな。」
「機会など永遠にないと言っているだろう!」

騒ぐカノンを面白そうに見やりながら、サガが寝室のドアを開ける。
そのまま出ようと足を踏み出しかけて、ふと、何かを思い出したかのように、身体を翻した。

「カノン。」
「何だ。」
「キスくらいはしたのか?」
「するか!くだらんこと言うな!」

叫びと同時に飛んできた枕を、サガがひらりとかわす。
ドアに当たって落ちた枕を律儀にカノンに投げ返してから、サガは、今度こそ寝室を後にした。

「くそっすっかり目が覚めてしまったわ。」

こめかみに青筋を立てて、カノンがぶつくさと文句を漏らす。
そうして、ふと傍らに視線を落とすと、瞬は、相変わらず、安らかな寝顔を見せ続けていた。

「…呆れてものも言えんとは、まさにこのことだな。」

深い溜息をつきつつ、カノンが瞬との間隔を縮める。

「俺がサガだったら、どうするのだ。」

至近距離でものを言っても、何の反応もない。
その理由はわかり過ぎるほどわかっていたが、何となく、それを全面的に認める気にはなれなくて、 カノンは、ある意味仕返しのように、瞬の髪を少し乱暴にかき混ぜた。

「う…ん。」

さすがにそれで目が覚めたのか、瞬が、身じろぎをして目をこする。

「…あれ?早いですね、カノン。もう起きるのですか。」
「…喉が渇いたから水を飲みに行こうとしていたところだ。戻ったら、もう一眠りする。」
「そうですか。」
「おまえも、もう少し寝ていろ。トレーニングに備えてな。」
「はい…。」

目が開けきっていないながらも、瞬が、笑みの表情をカノンに向ける。
それを目の当たりにしながら、カノンは、大いなる脱力感と、針の穴ほどの小さな痛みを感じつつ、その場から離れたのだった。


―――end


2003.12.25