佐助のストーカー日記番外編 『小十郎先生の看病日記』| 1

○月19日 (日) くもり


公園で佐助と別れた後、小十郎はすぐに幸村の待つマンションへと向かうことはせずに、近所にあるスーパーに寄り必要な物を買い揃えていた。
そこで一通りの買い物を終えた小十郎は急いで幸村の家に向かうと、おそらくまだ眠っているであろう幸村を起こさないよう、静かに玄関の扉を開けたのだった。

「あっ、片倉先生…!おかえりなさいませ…。」

しかし、扉を開けたのと同時に部屋の中から眠っているはずの幸村の声が聞こえてきた。
どうやら小十郎の予想に反して幸村は起きていたらしい。

「すまねぇ真田。起こしちまったか?」

なるべく音をたてないように開けたはずなのにまだ甘かったか?と反省しながら、熱で辛いのに自分のせいで目を覚ましてしまったであろう幸村に謝った。
しかし幸村は、その謝罪の言葉にゆるく首を振ると、何か言いたそうな顔で小十郎のスーツの袖を引っ張り、そのまま下を向いてしまった。

「おい、どうした?どこか痛むのか?」

それに気づいた小十郎がすかさず声をかけると、幸村は普段では考えられないような小さな声で話し出した。

「いえ…、そうではありませぬ…。」

「そうか。なら良いが…。真田、起こしちまった俺が言うのもなんだが、晩飯が出来るまでもう一眠りしたほうがいいんじゃねぇか?」

「あの…、違います…。片倉先生のせいで目が覚めたわけではありませぬ…。先生が帰ってくる少し前に目が覚めていて…。それで、その…、起きた時に先生の姿が見えなかったので不安になってしまいまして…。」

「それで、俺が帰るのを起きて待ってたってわけか?」

「はい…。すみませぬ…。」

下を向いたままの状態で恥ずかしそうにそう語った幸村は、それから何も言わない小十郎の様子を窺おうと、申し訳なさそうに顔をあげた。

「なに、謝ることはねぇさ。不安にさせちまってすまなかったな…。」

そんな幸村の不安げな瞳に気づいた小十郎は、幸村の頭を軽く撫でると、そそくさと立ち上がりキッチンの奥へと消えていった。

本当はもう少し気のきいた台詞を言ってやりたかったのだが、柄にもなく赤く染まった顔を見せることなど到底出来るはずもなく、幸村が顔を上げきる前に退散するしかなかったのだった。
ついこないだまでは、ただの教え子でしかなかった幸村に、今ではこんなにも心を掻き乱されるようになってしまったというのに、いまだに教師としてのプライドを棄て切れず、一線引いた態度をとる自分に小十郎は嫌気がさしていた。
出来ることならくだらないプライドなど全て棄てて本心をさらけ出してしまいたいとこだが、生憎そんな器用さも持ち合わせていない。

こんな時、見るからにチャラチャラしてそうなあの男なら、どんな風に幸村に接するのかと無意識に考えてしまった自分は、思っていたよりもずっとあの男のことを敵視していたのだと気づかされたのだった。

その事実になんとなく苛ついた小十郎は、ついさっきその男から奪ってきたケーキを勢いよく冷蔵庫に押し込むと、やっと晩御飯の準備にとりかかった。

おそらく小十郎がケーキにまで八つ当たりしてしまったのは、あの男に意外となついている様子の幸村を見て少なからず焦っていたからなのだろう。
しかし、実際の幸村は小十郎にしか興味がないらしく、今も小十郎以上に真っ赤な顔をして先ほど撫でられた部分の感触を確かめるようにして頭を擦っているのだが、足早に部屋を後にした小十郎にそれを知るすべはなかった。