佐助のストーカー日記番外編 『小十郎先生の看病日記』| 2

それからしばらくしてお粥が出来上がると、小十郎は温かいうちに食べさせてやろうと、買ってきた風邪薬を持って幸村の寝ているベッドへと近づいた。

「飯ができたが食えそうか?」

「あっ、はい!いただきます…!」

小十郎の声に反応した幸村は、頭まで被っていた布団から慌てて顔を覗かせると、お粥の入った容器を受け取って冷ましもせずに口に運んだ。

「おい、熱いから気をつけ…」

「アツっ…!」

それを見た小十郎が慌てて注意をしようとしたのだが、全部言いきる前に幸村の絶叫が聞こえた。

「だから言っただろ…。舌でも火傷したか?」

「いえ…、火傷はしていないと思いまする…。」

「怪我がなくて何よりだが、ちゃんと冷まさねぇからそうなるんだ。貸してみろ。」

幸村の落ち着きのなさに呆れながらも優しげな声でそう言った小十郎は、幸村の手からお粥の入った器を取り上げると、自分の口元へと持っていって息を吹きかけ始めた。
その様子を不思議そうな顔で見つめていた幸村だったが、小十郎が自分のためにお粥を冷ましてくれているのだと気づいた瞬間、ただでさえ赤い顔を更に真っ赤にして声を張り上げていた。

「あのっ、先生…!そこまでしていただかなくとも自分で出来ますゆえ…、器をお返しいただけないでしょうか…?」

「そうか?せっかく食べさせてやろうと思ったのに残念だな。」

幸村が恥ずかしがっていることに気づいていた小十郎は、からかうようにそう言ってフッと笑うと、持っていた器を幸村へとさしだした。

「むぅ…。からかわないでくだされ…!」

そんな風に拗ねたフリをしながらも、本当は食べさせてほしかった。なんて思っていたことは幸村だけの秘密である。
そんなことが小十郎にバレてしまったら、自分は今後どんな顔をして彼に接すればいいのか分からないからだ。

だからこそ必死にテレ隠しをして誤魔化していたのだが、小十郎にはそれもお見通しだった。
しかし小十郎は、そんなことには気づかないフリをしていた。

それが優しさなのか、ただのエゴなのかは本人にも分かっていないのだが…。

「それを食い終わったらこの薬を飲んでおけ。あいつから貰ってきたケーキもあるから、少し苦いくらいは我慢するんだぞ。」

「ケーキ…?あっ、佐助は何か申しておられましたか?」

ケーキという言葉でやっと佐助と約束していたことを思いだしたらしい幸村は、約束を守れなかったことを申し訳なく思いながらも、自分の代わりに佐助と会ってきてくれた小十郎から話を聞こうと身を乗り出した。

「あの男ならお前が倒れたって聞いて心配していたぞ。熱が下がったら連絡してやったらどうだ?」

幸村の口から佐助の名前が出て内心穏やかではない小十郎だったが、佐助が幸村の事を本気で心配していることも分かっていたので、親切にも連絡を入れるように促してしまった。

「はい!佐助には悪いことをしてしまいましたので、元気になったら一番に連絡しようと思いまする!」

「あぁ。そうしてやれ。」

自分の言葉に素直に頷く幸村を見て、たとえ敵に塩を送るようなことになっても、くだらない嫉妬心で嘘をついて信用を失うよりはずっとマシだと小十郎は思うのだった。

「ごちそうさまでした!先生、ちゃんと薬も飲みましたのでケーキを食べても良いでござるか?」

いつの間にか薬まで飲み終えていた幸村が、もうこれ以上は我慢できないといった様子でケーキの登場を心待ちにしている姿に、小十郎は込み上げる笑いを抑えつつ立ち上がった。

「まだたくさんあるから、今度はゆっくり食べるんだぞ。」

「はい!」

冷蔵庫から取り出され綺麗に皿に盛り付けられたケーキに目を輝かせながら返事をした幸村は、次々とケーキを平らげると満足したように深い眠りへとついたのだった。

小十郎は穏やかそうに眠る幸村の様子に一安心しつつも、その日は幸村から一晩中目を離すことはせず、温くなったタオルを代えたり、身体の汗を拭いてやったりと幸村の看病に勤しんでいた。

その小十郎の努力の甲斐あってか、翌朝目を覚ました幸村の熱はすっかり下がっていたので、二人は仲良く学校へと向かったのだった。


ちなみに元気になった幸村から佐助に連絡がいくことはなかった。

小十郎に一晩中付き添ってもらった嬉しさでいっぱいだった幸村は、お昼頃に佐助から電話がかかってくるまで、彼のことをすっかり忘れていたのだそうだ。


END