suit on you! | 1
高校に進学して制服が学ランからブレザーになったとき、少し大人になれた。
そんな気分で嬉しかったのを覚えてる。
いつか仕事に就いたら、スーツをかっこよく着こなし、背筋を伸ばし颯爽と街を歩く。
思い描いていた理想が実在したなんて、思ってもいなかったけれど。
捲り袖を戻して手首のボタンをはめた。
すっかり片付いた食卓に置いた愛用の腕時計をつけて、椅子に引っ掛けた上着が引き締まった身体を包む。
朝のこの時、いつも幸村の目は男の仕種に釘付けになってしまう。
毎朝見ているのにカッコ良すぎて、今日も思わずため息をもらしてしまった。
彼に比べたら、制服のブレザーなどなんとまあ子供っぽいことか。…早く仕事の出来るカッコいい大人になりたい。
そんなことを思いながらじっと見つめていたら、眼鏡までかけてしまった小十郎が苦笑いを寄越してきた。
「…そんなに毎朝見られちゃ、身体中に穴が空いちまう」
「あ…っ」
出勤の準備はほぼ完璧、整った全身を眺めてまた感激のまなざしを幸村は向ける。
…初めて逢ったときからカッコイイよなぁ…。
ひょんなことから背中を追いかけ、互いを知るようになり、いつしか恋におちていた。
一緒に暮らしている今、毎朝毎夜スーツ姿の小十郎を見られるなんて幸せすぎて仕方ない。
「…。…幸村、ぼんやりしてると遅刻するぞ?」
「! …はぁい」
注意されて幸村も食卓から立った。
臙脂色のタイに濃紺のブレザー。小十郎が着ているものからすると、本当に子供みたいだ。
身体もまだ頼りないし。どうしたら彼のように逞しくなれるのか。
むぅ、と唸りながらじっと手の平を見ていると、その手を小十郎につかまれた。
「…先に出る。鍵、忘れるなよ」
「はい。行ってらっしゃ……っ」
行ってらっしゃい、の語尾は唇に拾われた。