suit on you | 2

金曜日の夜は、謙信の店にも様々な顔をしたスーツ姿が出入りする。

もう夜の繁華街でバイトなぞしなくていいとは言われているものの、何もせず小十郎の世話になっているのも気が引けたので、今も週に一、二度ほど謙信の店を手伝っている。

厨房で食器を洗っていると、かすがが呼びに来た。着替えてフロアに出てほしいと言われ、誰が来たのか察した。

「…よぅ、お姫様。相変わらず綺麗じゃねえか」

細身のスーツを着こなした青年は、フロアの最奥の指定席でグラスを傾けていた。

「政宗さんも…最近見ないから、どうしてるんだろうって思ってました」

政宗はこの繁華街を取り仕切る組のひとつ、伊達組の長だ。構成員たちからは『筆頭』と呼ばれ慕われる。

紅いドレスとメイクで一見男子高校生とは思えない姿になった幸村は、笑顔で政宗の前に座った。

「…やっぱり勿体ねえな。アンタくらいCuteなら、No.1も夢じゃねえ」

「お……わたしは、小十郎さんが好きと言ってくれたらそれで…」

「Huhn…いっちょ前に惚気か? 生意気だなー」

小十郎と知り合った縁が政宗とも繋げてくれて、さらに惚れられてしまっている。

何かにつけてデートにも誘われるし、肉体関係に至る寸前まで襲われたこともあった。

「このままベッドまでescortしてえが……騎士様が来たな。もう少し残業してくりゃいいのによ」

背後を指されて振り向けば小十郎の姿があった。ネクタイの結び目が心なしか今朝より緩んでいる。

少々くたびれたところで魅力は損なわれることもなく、むしろまた惚れてしまうようだ。

「…お疲れ様です、小十郎さん」

小十郎は紅いドレス姿の幸村に驚きはするものの、政宗を見ると安堵の表情を浮かべた。

「…またそんな格好して…。バレたらどうするつもりだ、幸」

「伊達政宗専用だからNo problemだ。何かあっても俺が華麗に助けてやる」

「…それもいけません。伊達組の頂点なのですから、ご自重なさい」

サラリーマンは表の顔。片倉小十郎と言えば独眼竜の右目にして伊達組の頭脳と呼ばれ、この辺りでは名が知れまくっている。

だが、余程の大事が起きない限りは一般人として生活しているので、普段は伊達組の面々や他の組の古株くらいしか顔はわからないようだ。

「小十郎さん、飲みますか? もらってきますね」

「…ああ。いつもので頼む」

小十郎と政宗が滅多に姿を見せない紅い華を独占することに、非難の目を向ける客もいる。

嫉妬混じりの苦情に、謙信は麗しく微笑みを返すだけだった。