89
白。| 4
ヘイハチは、なにか云おうとして微かに唇を開きかけた。
しかし、ふるふると頭を左右に振ると、口を噤んでしまった。
常であれば、航空帽に押さえつけられている前髪が額に踊る。
ふっと息をつくとヘイハチは、いつもの恵比寿顔でキュウゾウを見上げた。
「そう……ですか……でも、運がいいですね、私」
見えるか見えないかの疑問の表情を宿し、キュウゾウが小首を傾げる。
不謹慎にもその仕草が可愛い……と思い、ヘイハチは、ふにゃりと笑った。
「だってほら、キュウゾウ殿とふたりきりですから」
どこへ行き着くか分からない黄泉の道で、出逢う事ができた、この奇跡。
「きっと同じくらいの時間に命を落としたんでしょうね、私たち」
ヘイハチはゆっくりと血に塗れるキュウゾウの手を取り、
大事な物を扱うように両の手で包み込んだ。
「死してからも、こうしてあなたに逢えた」
キュウゾウは、重ねられたヘイハチの手を見つめた。
赤い瞳に長い睫が影を落とす。
どうして、と、ヘイハチは思う。
どうしてこの人は、血と埃にまみれ襤褸布同然な姿なのに、
胸が詰まるほど美しいのだろう。
それなのに、触れれば切れそうな容姿とは裏腹な、
繊細でとてもあたたかい手。
私は……