彼岸花 〜冥瞬戦国絵巻 | 6

「い、いやああああああ!!」
瞬は丘の上にいる黒銀の男を見つけた。
けれど遅かった。
彼の体がぐらりと傾いだ瞬間、遅かったのだと悟ってしまった。
縺れるように走りながら近づくと、彼はすでに息絶えていた。
彼の白い顔に血飛沫がかかり、流れた血が大地を染めている。
辞世の句も残さずに――最期の言葉も聞けないまま。
ハーデスは自ら命を絶ったのだ。
都を落ち延びてひとり、強大な国を築き上げた男の最期もまた、ひとりきりだった。
がくりと膝をつき、瞬はハーデスの死体を抱き起こして泣いた。
「なんで、なんで死んじゃったの……どうしてっ……」
血に濡れた彼の頬に自分のそれを寄せる。白く眠る彼の血はまだ温かい。
がくがくと体を揺すっても、彼はもう目覚めない。
どんなに揺さぶり、声を上げても死者は帰らない。
薄紅の甲冑がしゃらしゃらと涼やかな音を立てていた。
「私のこと、好きだって言ったのに……言ったのにぃ……」
投降さえしてくれたら、沙織はハーデスを殺さずにおくつもりだと言っていたのだ。
かつて海皇水軍を傘下におさめたときのように、彼にも盟友としての地位を約束するはずだったのに。
それなのに、それなのに。
「どうして……あなたのこと、好きだって言いたかったのに……」
お願い、目を開けて。
抱き締めて、名前を呼んで。
瞬はハーデスの唇に自分の唇を触れさせた。
けれど何の答えもなく、ただ鮮血に唇が染まるだけ。
「ハーデス……ハーデスぅ」
ハーデスの遺体に縋り、瞬は真紅の世界でただひたすら泣き続けていた。
それを、沙織と星矢たちが遠くから見つめていた。
「私はね、もしハーデスが生きていたなら、瞬と娶わせてあげるつもりだったのよ。瞬が彼のそばにいる間に、瞬もまた惹かれているようだったから」
でももうすべてが水泡に帰したのだと、沙織は落胆の思いで目を閉じる。



聖域軍と冥王軍の戦いは聖域軍の勝利で幕を閉じた――多大な犠牲と恋の終わりとともに。