星屑の革紐 | 6
『実はさー、瞬ちゃんとえらいラブラブだって自慢するからウザくなってさ。小宇宙封じて仔犬に変えてそのへんに放り出したんだよねー』
オリンポスの長神とも思えぬ言葉遣いと、発想。
沙織はこれが我が父かと頭を抱えたくなったという。そして知恵そのものであった母メティスをこれでもかと思慕したことは想像に難くない。
とにかくゼウスはハーデスに嫉妬するあまりに弟を犬に変えたというのだ。
あまりのことにパンドラは卒倒し、ミーノスが慌てて抱きかかえた。このままじゃ埒が明かないと瞬が沙織から受話器をひったくる。
「それで、ハーデスを何処に捨てたんですか!!」
『おお、その声はアンドロメダちゃんか、怒ってても可愛いねぇ』
「誤魔化さないでください! ハーデスはどこかって聞いてんです!」
いつもの瞬らしくない声色に一同一歩だけ引いた。
ゼウスもたじろいだらしいのだが背後にいたヘラの怒りが怖くてそれ以上は下がれなかったという。
「どこなんですか!」
『教えてあげてもいいけど条件がある』
「なんですか」
瞬がそう問うと、受話器の向こうでゼウスがにやりと口角を上げた。
『ハーデスはわりとそのままの姿で仔犬に変えたから探しやすいとは思う』
「どういうことですか」
『今日の日没まであと半日。それまでにハーデスを見つけたら元の姿に戻してもやるし、アンドロメダちゃんとの仲を裂くような真似もしない』
「じゃあ、見つけられなかったら?」
ハーデスを見つける自信がないわけではない。だたこの広い世界にたった一匹の仔犬を探すのは容易ではないことはわかっている。
『見つけられなかったそのときは、アンドロメダちゃんには俺の愛人になってもらう。もちろんハーデスはちゃんと元に戻す』
「……!!」
あまりといえばあまりな条件に瞬は思わずそんなと叫んでいた。沙織もなんてことと、呆然とする瞬から受話器を奪い返した。
「父上、なんということを!」
『もし見つけられなかったらそれまでの愛だってことだろう。愛があれば何でもできる!』
「このアホー!!」
沙織はそれだけ叫ぶと受話器を投げつけるように置いた。
電話の前にへたり込んでいる瞬にかける言葉が見つからない。
だがやらなくてはならないことがたくさんある。
「とりあえずハーデスを探す事が先決です。瞬は私たちの大事な兄弟、仲間ですからね。あんな下半身マシンガンの愛人にさせるわけにはいきません!」
誰も『あなたのお父上では?』とか『あんたのじいさんは?』とか突っ込まなかった。
そんなことよりも瞬の方が彼らには大事だったからである。