星屑の革紐 | 7

沙織は再びゼウスと連絡を取り、より多くのヒントを引き出そうと母譲りの知恵をフルに活用した。
そこからわかったことは、ハーデスは黒銀の毛並みを持つ仔犬であること、首輪はしており、胎児などではなく生存する犬であるということ、 そしておそらくだが日本国内におり、ハーデスとしての意識と記憶はある。
以上のことであった。
少なくとも世界規模での捜索はしないでいいらしい。
それでも沙織は爪を噛む思いでいっぱいだった。
両親も知らず、たった一人の兄や友達と引き離され、アンドロメダの聖闘士となった。
そして過酷な前線を共に生き抜いてきてやっと幸せになれるところだった瞬に突然襲い掛かった凶事。その張本人が我が父とは。
情けないやら呆れるやらで沙織は泣きそうだった。
グラード財団の捜査網を駆使して黒い仔犬を裏路地のポリバケツの中から保健所まで徹底的に探し回るように指示する沙織は 今もどこかを走り回っているだろう瞬とハーデスを思い、深く詫びるのであった。
あんなゼウスでごめんなさいと。



そのころのオリンポスではヘラがゼウスをつるし上げていた。
「なんと言うことをするのじゃ! この無節操下半身が!!」
「お兄様を何処へやったのです!!」
フライパンでゼウスを殴っているのが末の妹、家庭女神のヘスティアである。そのとなりには農耕と豊穣の女神デメテルが涼しい目元でゼウスを冷ややかに睨みすえていた。
「呆れてものも言えぬ。やはりハーデス兄上に天地をお任せした方がよろしかったのではないか」
「今からでもお戻り願えばよろしいのではっ!?」
ヘスティアはなおもゼウスをフライパンでたこ殴りにしている。怒りに任せているのでときどき縁が目を掠めたりしてとっても危ない。
「とにかくだ、ヘラ姉上、ゼウスのアホにはあとで制裁を加えるとして今はハーデス兄上の行方を捜すことが肝心だと思うぞ。アテナもアンドロメダも探しておろうがな」
「ポセイドン兄様は?」
「あれは寝ておる」
ポセイドンは今海底神殿でアテナの壷に封じられ、あと二、三百年は起きてこない。
ヘスティアは役立たずと怒鳴りながらまたもゼウスをたこ殴り。
事ここに至ってやっとデメテルが妹を止めた。
「ヘスティア、そろそろやめぬとゼウスが死ぬぞ」
「構いませぬ、こんなアホー!!」
「こら、ゼウスが死んだら誰がハーデスを元に戻すのじゃ。殺すのはあとじゃ」
ヘラにそう諭され、ヘスティアはやっとフライパンを下ろした。
「では去勢用に包丁を砥いでもよろしゅうございますか?」
「許す」
姉神たちの許しを得、ヘスティアは嬉々として包丁を研ぎ始めたという。