星屑の革紐 | 10

沙織が星矢たち全員を拾い、冥闘士全員に城戸邸に戻るように声をかけてから現場に到着した。
そこは近所の小さな公園で星矢が最後に立ち寄った場所でもあったのだ。
雨が降りしきるその中に恋人たちがしっかりと抱き合っている、とても幸せそうな光景が広がっていた。
「ここにいたのか? 俺ぜんぜん見つけられなかった! 瞬にも会わなかったのに!」
星矢が驚いて沙織を見る。沙織はしょうがないことよと笑う。
「誰かが――全能の神がどんなに邪魔をしても愛の前には敵わないってことよ。きっと瞬だから見つけられたんだわ……」
黒衣の男に抱きしめられている少女はただ声を上げて泣き続けていた――安堵と、そしてほんのちょっとの彼に対する怒りで。
見つかったのならそれでいいと、沙織たちは静かに引き上げていく。
ここにはたったふたり。そのふたりのためだけの世界があった。
「ハーデス……探したんだよ。ずっとずっと探したんだよ」
「すまぬ。余としたことが油断した」
ハーデスは子犬の姿から解き放たれ、いつもの麗しい青年の姿に戻っていた。
ゼウスは俺の力が必要だと言っていたがどうやらそれは嘘らしい。
魔法を解くのはいつだってキスだと決まっていたから、ハーデスが瞬の唇を舐めた瞬間にあっけなく呪いは解けたのだ。
ハーデスの指が濡れた瞬の髪を優しく撫でた。
「こんなになるまで余を探してくれたのか?」
「当たり前じゃない、あなたは私の大事な恋人なんだよ。この年で未亡人はやだからね」
瞬は泣きながら笑っていた。
あのとき星が教えてくれなかったら
――木陰で震えている犬がそうなんだと言わんばかりに鎖からちぎれて転がっていった――
もう二度と恋人として逢うことはなかっただろう。
ハーデスは瞬をそっと抱き寄せる。
「瞬……愛している。もう離れはせぬし、離さぬ」
「はい」
ええ、忘れないわ。
いつだって恋は、そして愛は星屑の煌きの中にあることを。
瞬は顔をあげ、ハーデスはその美しい頬を包んだ。
そして目尻に口づけ涙を吸うと、そのまま頬を舐めながら唇に触れた。
少し長めのキスに瞬の目からまた涙が零れたが、ハーデスはそれを拭わなかった。
キスに夢中だったし、何よりそれが嬉しい涙だと知っていたからだ。