氷の戸惑い

 氷河瞬

 ものがたりは未だはじまらず | 3

あの小さくか弱かった瞬が生きていた喜び、そして美しく成長したその姿を見たときの甘い衝撃。
気丈に引き結んだ唇が、瞬の心を裏切っているようで余計にその姿を儚いものにしていた。
凛と背筋を伸ばして立つ瞬に、俺の胸が微かに疼くのを感じた。



知らず知らず、視線がいつも瞬を追っていた。

幼い頃と変わらない、いや、もっと深い包み込むような温かさと優しさをその身に湛えている。
触れると壊れてしまうのではないかと思う繊細さと、内に秘める決して折れないしなやかな強さに惹かれた。
アテナの為、地上の平和と正義の為とはいえ、己の信じる神と正義に従ったまでの決して邪悪と言い切れない者達を、その手で討ち倒していかなければならない苦しみ、哀しみ、迷いを映した瞬の瞳は、深い翡翠色をして俺の心を打った。
戦いの最中、敵を真っ直ぐに見据えるその美貌は凄絶なほど冴え冴えと美しく、眩暈を覚えるほどであった。
夥しい血に濡れながら、瞬の魂は汚れを知らず、己が奪った命の尊さを思い打ち拉がれる……彼の震える肩を強く抱き締めてやりたい……と、俺は何度思ったことだろう。




そして共に戦ううちに、俺の胸の疼きはいつしか押さえきれない熱い塊となっていった……。