双碧のやすらぎ

 カノン瞬

 vacances バカンス | 4

ほどなく機上の人となった二人は、アッパークラス・スイートの快適なシートをリクライニングさせ、くつろいでいた。

「ねえ、『楽園』ってどんなところ?」
大きな瞳をキラキラさせながら、瞬が尋ねる。その無邪気さにうっかり口を滑らしそうになってしまい、 あぶないあぶないと、カノンはひとつ咳払いをした。
「それは着いてからのお楽しみだ」
「ふうん」
何度尋ねてもはぐらかすばかりで、カノンはヒントすらくれない。ちょっとくらい教えてくれてもいいじゃないか、と、瞬はふくれっ面でカノンを睨み付けた。
「そんな顔しても可愛らしいだけだからな」
カノンは笑いながら瞬の頭をポンポンと軽く叩く。瞬は、「子供扱いしないでよ!」と、一応怒ってみせたのた。しかし大して迫力はなかった。
そんな瞬を眺めながら楽しそうに笑うカノンに、この人ってこんなに笑う人だったっけと、瞬はつられて笑いながら思った。

聖域では常にどこかで神経を張っているのだろう。カノンのこんな無防備な笑顔は記憶にない。 彼の職務と責任を思うと、それにあまり役に立ってないであろう自分の至らなさに、瞬は笑みを潜めた。
「どうした?」
急に大人しくなった瞬の顔をカノンが覗き込む。瞬は気遣わしげなカノンに薄く微笑んで見せた。
「ん、なんでもない。シャンパンが効いたみたい。なんだか眠くなっちゃった」
「そうか……では少し休んだほうがいいな」
カノンは優雅に片手を上げ客室乗務員を呼ぶと、瞬のシートをフラットベッドへセッティングするように頼んだ。 この人は…と、瞬は思う。嫌味のない仕草がスマートで、自分と彼との差を思い知らされる。 修行と戦いに明け暮れていたはずなのに、いつそんな立ち居振る舞いを身につけたのか、瞬はいつも憧れと共に不思議に思うのだった。

瞬はこの旅の為にあつらえたエレガントカジュアルから、ゆったりとしたスリープウエアに着替えると、用意された肌触りの良い布団に潜り込んだ。
飛行機のベッドとは思えないほどの寝心地とカノンが側にいる安心感から、瞬はあっという間に眠りに落ちていった。