カノン瞬
vacances バカンス | 5
「もう少し乗っていたかったなぁ」
空港に降り立った瞬は、うーん…と伸びをしながらそんな事をつぶやいた。
カノンは苦笑したが、長いフライトだったにもかかわらず、彼にも疲れはほとんど無かった。
さすが、最高のホスピタリティを誇るだけの事はあるようだ。
「しかし、まだ到着ではないぞ。ここからヘリで約1時間だ」
「えー!まだなの!?」
さっきはもっと飛行機に乗っていたいと言っていたはずなのに、瞬はガクリと肩を落とした。
「あ〜、一体、ほんとにどこに連れて行かれるんだろう…僕」
「もう少しの辛抱だ、頑張れ」
「これで、しょーもないリゾートだったら僕、速攻帰るからね!」
しばらくごねていた瞬だったが、飛び立つとすぐ、眼下に広がる蒼い海と白い珊瑚礁の神秘的な輝きに魅せられ黙り込んだ。
そんな瞬をカノンはそっと見つめていた。
約1時間後、二人は小さな島のヘリポートから四駆を走らせ、ジャングルと言って差し支えのない熱帯雨林を突き抜けた。
突然広がる白い砂浜と透き通る海。すっきりと晴れ渡る空が、どこまでも広がっている。
「わあ…すごい」
「ああ…」
それっきり言葉を無くしたままの瞬を隣に、カノンは黙ってハンドルを握った。
小さな街を通りすぎ、さらに車を走らせて、漸く瀟洒なヴィラへ到着した。
エントランスを抜けたその先、広々としたリビングの窓は全て開け放たれ、コートヤードからプールを望むその向こうにはプライベートビーチが広がっている。
小さな感嘆が瞬の口から漏れた。
「……カノン、ここが……」
「どうだ、気に入ったか?」
いつの間にか後ろに立っていたカノンが、瞬の腰に腕をまわし、耳元に唇を寄せて囁いた。
とたんに瞬の心臓がドキリと跳ね上がる。
「うん、すごい綺麗!他にもお部屋が沢山あるみたいだね。探検しなきゃ!」
瞬は慌ててカノンの腕から逃げ出した。カノンの吐息が触れた耳が熱い。
ギリシャから遠く離れたこの南の島でカノンと二人きりだという事実を突然意識して、瞬の鼓動が早くなっていく。
そんなこころの乱れを隠すように、瞬はおどけて次々と部屋を見て回る。
「やれやれ、まだ子供だな」
カノンは微かに笑みを浮かべると、ゆっくりと瞬の後を追っていった。