それは甘い恋の味 | 2

「慶次殿ー!お待たせして申し訳ありませぬ。」

数分後、浴衣姿の幸村が駆け足でやってきた。
相当急いできたのか、頬は真っ赤なうえに浴衣も乱れている。
そんな姿を見せられれば誰もが善からぬことを考えてしまうだろう。

もちろん、慶次も例外ではない。

「……。」

案の定、慶次は幸村を見つめたまま身動き一つしない。
どうやら、あまりにも妖艶な幸村の姿に、言葉がでないらしい。

「あの…、慶次殿?もしや、怒っておられるのでございますか…?」

そんな慶次に、怒っていると勘違いしたらしい幸村が不安そうに小首を傾げて声をかける姿といば、まるで仔犬のようだった。

「えっ!?何言ってんだよ幸。俺がそんなことで怒るわけないだろ!」

その不安そうな声でやっと我にかえった慶次は、なんとか幸村を安心させようと彼の頭を軽く撫でながら返事をしている。

「それを聞いて安心致しました!某、てっきり慶次殿に嫌われてしまったのかと…。」

「俺が幸を嫌いになるなんてありえないって。ただ、あんたがあんまり可愛いもんだから見とれてたんだよ!」

「なっ!女子でもないのに、かっ…、可愛いなどと言われても嬉しくありませぬ…。」

そうは言いながらも、恥ずかしそうに目を逸らす姿は、どことなく嬉しそうである。
普段ならば、照れ隠しに拳の一つや二つとんできてもおかしくない状況で、こんなしおらしい態度をとられれば、期待もしてしまうものだろう。

「まぁ、そんなに照れんなって!やっぱ幸は可愛いな!」

「慶次殿…!?某はべつに照れてなどおりませぬ…。」

「わかったよ!じゃあ、そろそろ行くとするかい?」

そう言いながらさしだした慶次の手は見事にスルーされることとなった。

「はい…。あっ!りんご飴でござる〜!」

「ちょっ…、幸!どうせ引っ張るなら手を掴んでくれよ!」

りんご飴を発見した幸村は、慶次の言葉も聞かずに彼の着物を掴むと、屋台めがけて一目散に駆けていった。

どうやら幸村には、慶次の言葉よりも食べ物の方が重要らしい。

せっかく、自然に手を繋げるチャンスだったというのに気の毒な男である。

(さすがだよ幸…。けど、俺はこのくらで諦めたりなんかしないぜ!恋は前途多難な方が燃えるっていうしな!)

だが、慶次にはこのくらいどうってことないらしい。
常人ならば、りんご飴に負けてすぐに立ち直ることなどできないだろう。

さすがは歌舞伎者と呼ばれるだけはある。