suit on you | 3

「…そろそろ仕立てておくか?」

帰宅すると小十郎が話を振ってきた。

「…え?」

何のことやらわからず幸村が首を傾げると、小十郎はスーツの上着を指した。

スーツを仕立ててくれるらしいが、冠婚葬祭にはまだ制服で事足りるし、予定があるにしてもまだまだ先だ。

「いえ、まだ大丈夫です。必要になれば自分で行きますし…」

「…毎朝人のスーツ見ておいて何言ってるんだか。礼服と普段使いくらいは、な……店でいちいちドレスを着るのも一苦労だろう」

「……」

フロアで正体を隠して小十郎や政宗に接するために女装をするのだが、ドレスはともかくメイクだ。

幼さを隠そうと目許は毎回大変なことになっている。今夜もつけ睫毛とマスカラのお陰で、瞬きひとつで風が起こせそう。

「…伊達組が贔屓にしてる店がある。来週の土曜日にでも行くか」

「組の贔屓って……もしかして、政宗さんも小十郎さんもそこで?」

「ああ」

さも当たり前のように頷いた小十郎だが、幸村は勢いよく首を横に振った。

彼らがまとうスーツは一見シンプルでも、謙信や佐助が言うには『結構上等』『既製品なんて鼻で笑える』シロモノとのことだ。

つまりは高校生のバイト代程度でどうにかなる値段ではない。それなのに、上等なスーツを仕立てるなんて無理。

「…金のことなら気にするなよ」

「気にしますって! だって、小十郎さんのも政宗さんのも高いんでしょう…? なのに、俺みたいな高校生がそんな」

「だから気にするなって。…なぁ幸村、カタイこと言わないで、少しくらい俺にも楽しませろ」

「あ……っ」

店から着替えずに出てきたので、幸村はまだ紅いドレスのまま。艶やかな生地の上から腿を撫で上げられた。

開いた胸元にキスが落ちる。

ソファに横たえられて見上げれば、ネクタイの結び目に指がかかるところ。長い指がぐっとタイを引き、器用に解いた。

きっちり着込んだ衣装を無造作に緩める――…封じた欲から徐々に鎖を外し、誰も知らない男の素顔が見えて、心臓は鼓動を速める。

「……幸村、脱がせてくれるか…?」

ワイシャツのいちばん上のボタンを外したところで、小十郎は手を止めた。

…俺がボタンを外したら、この人は。

背筋を襲う甘さに指先は震えた。